Lo Stadio Giapponese

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ファンが作るセリエA歴代選手名鑑〜マルコス・アロンソ〜

「SBが上手いチームは強い」

  僕はそう言われて育ってきた。


  現役時代DFだった僕にとって、目立つストライカーや華のあるゲームメイカーよりも、地味に見えるDFこそがヒーローだった。そして、僕の応援するフィオレンティーナには決まって優秀なSBがいたのだった。


  長くヴィオラに在籍し、カピターノとしてチームを牽引したマヌエル・パスクアルをご存知だろうか。セリエDからイタリアのトップリーグに上り詰め、アッズーリにも招集されながらチームで11年も主力として活躍したヴィオラのバンディエラである。

  彼はフェデリコ・バルザレッティやファン・マヌエル・バルガス、マッシモ・ゴッビという優秀な選手達との熾烈なポジション争いにも負けず、速く正確なクロスを武器にアルテミオ・フランキの左サイドを駆け上がってきた。長くヴィオラの左後方を支えた彼をベンチに追いやったのは、イングランドでの武者修行を終えた若きスペイン人だった。

 

  その名を、マルコス・アロンソという。

 

  僕の知る限り、彼こそがフィオレンティーナ史上最高のLWB/LSBである。スピードはそれほど速くないが、188cmという高さに見合ったフィジカルが魅力。しかし、彼の最大の武器はその上背でなく、左足から繰り出される正確無比な内巻きのクロスである。

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  パウロ・ソウザ率いる15-16シーズンのフィオレンティーナは、モンテッラの作り上げたポゼッションの基盤にショートカウンターを加えた戦術で、一時15年振りのカンピオナート首位に立った。現地まで応援に行ったこのシーズン。僕は15-16のフィオレンティーナをきっと生涯忘れない。

 

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  3-4-2-1の先頭に立つのが戦術的要のニコラ・カリニッチ。ポストプレーでチームのリズムを作り、攻撃の核になる。
  2シャドーの左に入るのが、今季首位争いの渦中にあるインテルの復調の兆しとなったスペイン仕込みのマエストロ、ボルハ・バレーロ。右は、独特なリズムのドリブルと卓越したシュート能力を武器に,現在アタランタで脚光を浴びるヨシップ・イリチッチ。
  RWBに憎きユヴェントスに移籍したベルナル...(名前を忘れた)が入り、中央にはバランサーとしての才能を開花させたミラン・バデリと縦への推進を持ち味にチームに勢いを与えるマティアス・ヴェシーノ。
  LWBに入ったのが、他ならぬマルコス・アロンソである。

 後方には、正確なロングフィードとカバーリング、CKのターゲットにもなってピアノも弾けるゴンサロ・ロドリゲス。その左に構えるのが、亡き永遠のカピターノ、ダヴィデ・アストーリ。ここまで眼を見張る選手層であるのにも関わらず、右にいるのが凡ミスの鬼トモビッチというのがヴィオラらしくて良い。
  守護神はルーマニア代表のチプリアン・タタルシャヌ。卓越したセービングスキルは何度も相手FWに絶望を見せてきた。


  こうした面々に加えて、控えにクリスティアン・テージョやマウロ・サラテ、マティアス・フェルナンデス、ブワシュチコフスキらがいるといえば、どれほどの選手層だったか分かるだろう。成る程CLを目指すだけの選力はある。
  そんな中で、マルコス・アロンソは一際輝いていた。シーズン終了後には、どのメディアが選ぶセリエAベストイレブンにも彼の名があった。リーグ全体で見ても、それ程までに彼のパフォーマンスは際立っていた。

 

 余談であるが、僕が現地に観に行った試合は、あまりの怪我人の多さで、LWBパスクアルのLCBにマルコス・アロンソという「うわ~、パスクアルかアロンソかどっちかしか観られないの残念だなぁ~、どっちも観たいなぁ~」という僕の煩悩を見事に叶えた試合であった。・・・正直言ってLWBで躍動するアロンソが観たかった。


 また余談だが、僕が観てきたフィオレンティーナのゴールの中で、最も好きなゴールはソウザ期にマルコス・アロンソのアシストから生まれたものだ。サッスオーロ戦のイリチッチのゴールである。

 

 

[15-16シーズン第33節 Fiorentina vs Sassuolo 3-1]

 

  また、マルコス・アロンソは、ヴィオラに在籍していた頃からFKの名手であった。15-16シーズンのセリエA第1節ミラン戦では、芸術的なFKをネットに突き刺している。パスクアルもFKは上手かったが、アロンソ程ではなかった。スピード、コース、軌道、全てを持ち合わせた、完璧なフリーキッカーである。見ている者を呆然とさせるFKが蹴れる、世界でも有数のプレースキッカーだと思う。

 

[15-16シーズン第1節 Fiorentina vs Milan 2-0]

 

 

[チェルシー移籍後話題となったBasket Shot]

 

  僕を虜にしたLWBは、シーズン後イングランドの名門チェルシーに引き抜かれた。日本ではそれほど話題にならなかったが、推定2500万ユーロの値で、これは当時クラブ歴代9位となる売却額であった。きっとこの時でさえ、彼の名を知っている日本人はカルチョファンを除けばごく少数だったことだろう。僕のヒーローは、決して大衆のヒーローではなかった。


  それが、今はどうだ。

  彼は過去にCLを制したこともあるクラブで4シーズン目を戦っている。16-17シーズンには主力としてリーグ制覇も成し遂げた。無敵艦隊ことスペイン代表にまで名を連ね、サッカー好きに知らない人はいない選手にまでなった。

  フィオレンティーナで花開いたLWBは、誰も知らない僕のヒーローは、いつしか世界に名を馳せるスターになった。


  ある時、僕の友人がチェルシーのユニフォームを買ったと言った。その背中には、背番号3にMARCOSの名があった。日本人が当然のように着ているユニフォームにその名が刻まれている。そんな小さな事に、僕は感動すら覚えるのである。


 29歳となった今でも変わらず前線に正確無比なクロスを送る。

 フィジカルを活かして敵を跳ね除け、ゴールネットを揺らさんと左足を振る。

 僕は今でも、マルコス・アロンソのサポーターであり続ける。

 

 

【ファンが作るセリエA歴代選手名鑑】

File No. 1

Marcos Alonso

 

文:Kyazu(@serientina)