ついにセリエAに日本人が帰ってくるかもしれない。古くは三浦知良がジェノアに活躍の場を移し,そこから中田英寿や長友佑都,本田圭佑といった名立たる日本人選手たちがカルチョの国に挑戦して酸いも甘いも味わってきた。その歴史がまた更新されるかもしれない。新たな挑戦者となりうるその選手の名を,冨安健洋と言う。
イタリアはかねてより守備の国として有名であり,圧倒的な個の力でなく組織として敵の良さを消す戦術的な守り方をする。そしてそれはインテリジェンスに長ける冨安のプレースタイルにきっとマッチするはずである。では,果たして冨安の移籍が噂されるボローニャFCとはどんなクラブなのだろうか。彼の移籍を機にボローニャの試合を観てみよう!という方々のために,ボローニャというクラブや所属する注目選手,ポジション争いの相手などを簡単にまとめてみた。是非,シーズンが始まる前に目を通してみてほしい。
ボローニャってどんなクラブ?
イタリア北部のエミリア=ロマーニャ州の州都であるボローニャ県に拠点を置くサッカークラブがボローニャFCだ。
まず最初にボローニャという街について触れておこう。ボロネーゼといえば,この街発祥の有名なスパゲッティである。美しい中世の建造物の街並みは観光地としても人気があり,鉄道や高速道の関係から,イタリアの中では有数の発展した都市でもある。イタリアで有名な建造物と言えばピサの斜塔は外せないだろう。しかし,このボローニャにも斜塔が存在するのをご存知だろうか。それも2本である。卒業旅行に冨安の試合を観に行こう!というのはアクセスの面でも観光地としての面でも街の生活水準の面でもピッタリかもしれない。これはつまり,実現すればイタリア初挑戦となる冨安にとってもボローニャは生活しやすい都市であると言え,そういった意味ではこの街はポジティブな要素として挙げられる。
それではクラブについて見ていこう。チームとして昨季の順位は10位。これはおおよそのセリエファンからすれば「大健闘だな」という感想を持つことだと思われる。つまり,基本的には目標をA残留とするクラブであるということだ。というのも,18~20位が降格となるセリエAにあって2015年以降の成績は14位,15位,15位と微妙。その何よりの弱みが守備の脆さであった。昨季の序盤チームを率いた元ACミランの名ストライカー,ピッポ・インザーギはこれを改善できずに守備が崩壊。結果としてチームは1月下旬の時点で降格圏内の18位に沈み,シーズン途中に解任され,新たな指揮官にバトンが移った。
新指揮官の名はシニシャ・ミハイロビッチ。かつてサンプドリアやラツィオで活躍した伝説的CBである。つまり,冨安にとっては是非教えを請いたい指揮官だ。ミハイロビッチの就任以降,信じられない強さを見せたボローニャは残りの3ヶ月で一気に成績を上げて10位という結果を得ている。新チームに対する期待も想像に難くない。守備の要となり得る新CBは自然と注目されることだろう。ちなみにミハイロビッチはACミランで本田圭佑を右WGとして重宝した指揮官であり,日本人との関わり方も知っている。イタリアのクラブの中でこれほど移籍する環境の整ったクラブは他にないだろう。
ボローニャFCの注目選手は?
せっかく試合を観てみよう!と思っても,知っている選手が1人ではつまらない。そこで,ここでは4名の注目選手をあげておく。メルカートで移籍してしまわない限りは来季もボローニャで活躍する姿が見られることだろう。是非,その際は「おっ,スタジャポで紹介されてた選手だ!」と思いながら観ていただければ幸いである。
リッカルド・オルソリーニ
国籍:イタリア
年齢:22歳
身長:183cm
ポジション:FW
元ユヴェントスでU21イタリア代表にも名を連ねる期待の逸材。昨季の活躍をうけて,ボローニャへ完全移籍を果たした。左利きながら右サイドを主戦場とする技巧派のウインガーであり,カットインからの鋭いシュートはチームの武器である。サイドプレーヤーには欠かせないスピードも備えており,今後さらに評価額を上げるであろう注目銘柄だ。
エリック・プルガル
国籍:チリ
年齢:25歳
身長:186cm
ポジション:MF
先日のコパ・アメリカで日本に先制弾を突き刺したチリ代表MF。松田翔太っぽい端正な顔立ちとは裏腹に,フィジカルコンタクトを得意とする細マッチョ。豊富な運動量に加えて正確なボールコントロールも武器に持つ彼はチームのゲームメイカーとして不可欠な存在である。中盤に必要な能力を満遍なく身につけた大きな穴のない選手と言える。冨安と共に,守備時に前後で敵を挟み込む良きパートナーとなるだろう。
フェデリコ・サンタンデール
国籍:パラグアイ
年齢:28歳
身長:187cm
ポジション:FW
どこからどう見てもフィジカルが強い。以前こちらでも紹介したFWで,最終節ナポリ戦では2ゴール1アシストと大暴れした。最終ラインからのフィードの預け役となるだろう。前述したオルソリーニと連携した崩しやプルガルからのラストパスを最後にゴールに叩き込めるストライカーである。デストロやパラシオといった名のあるFWを数多く抱えるボローニャで32試合という出場数がその実力を物語っている。
ロベルト・ソリアーノ
国籍:イタリア
年齢:28歳
身長:182cm
ポジション:MF
トリノで評価を落とした彼は,ベテランのオフェンス選手はボローニャで復活するという例にもれず,移籍後見事半年で復活を遂げた。ミハイロビッチの下でトップ下を任され,完全にボローニャの攻撃を司るキーマンとなっている。ドイツで育ち,スペインで活躍してきた彼が得意とするのはチャンスメイク。いわゆる司令塔だ。年齢的にもベテランの域に達しつつある彼の成熟したプレーに来季も期待がかかる。
富安のポジション争いの相手は?
移籍が実現したとて、出場機会が与えられなければ意味がない。かつて本田や長友もこのポジション争いに苦しんだ。果たして冨安はレギュラーを勝ち取ることが出来るのだろうか。日本代表CBのポジション争いのライバル選手についてまとめた。
フィリップ・ヘランデル
スウェーデン代表CB。昨季序盤はレギュラーとしてボローニャの守備を担ったが、監督が変わってからめっきり出場機会が減った。192cmの長身は魅力だが、指揮官ミハイロビッチの信頼を完全に得ることは叶っていない様子。
ダニーロ
長らくウディネーゼに所属していたブラジル人CB。身長はそれほど高くないが、ベテランの読みで攻撃の芽を積む。パフォーマンスの安定感も高い水準で備えており、ボローニャのディフェンスリーダーと言って差し支えない存在だろう。ただ、35歳という年齢からそろそろ衰えが見えてきそうではある。
ネウエン・パス
アルゼンチン出身の長身CB。昨季はほとんど出場機会を得られぬままローンで母国に帰郷した。おそらく来季もレギュラー争い筆頭候補にはなり得ないだろう。
実は主なCBは以上である。 というのも、昨季ミハイロビッチ政権誕生後にCBとしてレギュラーの冨安の座を掴んだのはリャンコという若手のブラジル人だった。そのリャンコはトリノからのローンでの加入で、先日トリノが彼をローンバックで呼び戻したのだ。 さらにリャンコとダニーロのバックアッパーであったジャンカルロ・ゴンザレスがロサンゼルス・ギャラクシーに移籍し、結果として残ったのが以上の3名なのである。 つまり、冨安は即戦力として期待されて白羽の矢が立ったのだ。
おわりに
欧州5大リーグ初挑戦となる冨安をチームの柱の候補として選んだのは、セリエファンなら知らない者はいない名SDサバティーニ。 かつてローマにナインゴランやべナティア、ラツィオにコラロフやリヒトシュタイナー、そしてパレルモにパストーレなどを呼び込んだ目利きの天才である。
冨安は決してアジア資本目当てで狙われているわけではない。 主力を失ったことによるパニックバイでもない。 チームの守備を担う大きな戦力として期待され、イタリアの地から目をつけられたのだ。
そう、つまり我々は期待していい。 活躍の場がどこになろうとも、アジア最高のCBが誕生するのは時間の問題だ。